はじめに
障害者就労支援の現場では、利用者一人ひとりの状況を正確に把握し、最適な支援計画を立てることが重要な課題となっています。しかし、従来の支援では客観的な評価が中心となっており、利用者自身が感じている主観的な感覚との乖離が見えにくいという問題がありました。
映像制作工房LACでは、映像制作という具体的な職業スキルを通じて、この課題に新たなアプローチで取り組んでいます。
映像制作工房LACのシステム構成と活用状況
3つの基幹アプリケーション
1. 映像制作スキル学習アプリ
- 映像編集の基礎から応用まで段階的な学習コンテンツ
- 個人の進捗状況とスキル習得レベルの記録
- 学習時間と理解度の客観的データ蓄積
2. 案件共有・評価アプリ
- 実際の映像制作案件の配布と管理
- 完成した成果物の品質評価システム
- 支援者による多角的な評価項目の記録
3. 稼働時間ログアプリ
- 作業開始・終了時刻の正確な記録
- 案件別の実作業時間データ
- 生産性と効率性の定量的分析
現在取得しているデータ
これらのシステムから、以下のような客観的データを継続的に収集しています:
- 学習データ: 各コンテンツの視聴時間、習得度、反復学習回数
- 作業実績: 案件別作業時間、完了率、品質評価スコア
- 生産性指標: 時間あたりの成果量、修正回数、締切遵守率
現在の活用方法
支援者は蓄積されたデータを基に、利用者の強み・弱みを把握し、個別支援計画を策定しています。また、就職活動時には企業に対して具体的な実績データを提示することで、利用者のスキルレベルを客観的に示せるような機能開発を進めています。
システム進化の方向性
Phase 1: 主観データの収集開始
利用者様が新たに追加する入力項目
作業開始時:
- 今日の調子・気分(5段階評価)
- 作業への自信度(5段階評価)
- 個人目標作業時間の設定
作業終了時:
- 疲労・ストレス感(5段階評価)
- 案件の得意・不得意度(5段階評価)
- 自由記述コメント
管理者機能の拡充
- 案件ごとの管理者設定目標時間
- ポートフォリオ画面での詳細分析
- 概算時給などの経済的指標表示
Phase 2: 分析ダッシュボードの実装
主観データと客観データを統合した専用分析画面を開発予定です:
- 乖離分析グラフ: 事前の自信度と事後の満足度、管理者評価の比較
- 時系列分析: 日々の調子と実際のパフォーマンスの相関
- パターン認識: 個人の認知傾向と最適作業条件の特定
- 環境要因分析: 天候、時間帯、曜日などの外部要因との関係
Phase 3: 高度な分析機能
将来的には以下の機能も検討中です:
- AI活用によるコメント内容の感情分析
- 複数利用者の匿名化データ比較
- 不調予測アラート機能
- 最適な作業スケジュール提案
導入スケジュール
2025年6月-7月: Phase 1機能の実装・運用開始
- 既存システムの機能拡張
- 主観データ入力機能の追加
- 支援員向け操作研修
2025年8月-10月: Phase 2分析ダッシュボード開発
- データ統合システム構築
- 可視化機能の実装
- 実運用でのデータ蓄積開始
2025年11月以降: Phase 3高度機能の検討・開発
- AI分析機能の段階的導入
- セキュリティ・プライバシー対策の強化
事業所運営への期待される影響
支援の質的向上
個別化の精度向上 従来は支援者の主観的判断に依存していた部分が、データに基づいた客観的分析により精密化されます。利用者の「過信傾向」「過小評価傾向」などの認知パターンを把握することで、より適切なアドバイスと目標設定が可能になります。
早期介入の実現 主観データのモニタリングにより、メンタル不調や作業効率低下の兆候を早期に発見し、適切なサポートを提供できるようになります。
業務効率化
エビデンスベースの支援計画 感覚的な判断ではなく、蓄積されたデータに基づいた支援計画により、PDCAサイクルをより効果的に回すことができます。
企業連携の強化 就職時に提供できる情報がより具体的になり、企業側も利用者の特性を理解しやすくなります。これにより、職場定着率の向上も期待されます。
新たな価値の創出
他職種への展開 映像制作で培ったノウハウは、他の職業訓練分野への応用も期待され、就労支援業界全体への貢献も可能です。
開発の背景と今後の展望
この取り組みは、日々の支援現場で感じる「利用者の主観と客観的実績のギャップ」という課題から生まれました。利用者が「できない」と思っている作業で高い評価を得たり、逆に自信を持って臨んだ作業で思うような結果が得られなかったりする場面を、多くの支援者が経験しています。
私たちは、この乖離そのものに価値があると考えています。乖離を「問題」として捉えるのではなく、「個人の特性を理解するための重要な情報」として活用することで、一人ひとりにより適した支援が提供できると信じています。
今後も開発の進捗や実際の運用における気づき、技術的な挑戦や工夫について、開発日記という形で継続的にお伝えしていきたいと思います。
映像制作工房LACは、障害者の就労支援において「一人ひとりに最適化された支援」の実現を目指し、継続的なシステム改善に取り組んでいます。