就労支援の現場で「何度言っても直らない」という支援者様の声を聞きます。利用者さまが同じ指摘を繰り返し受けたり、完了した課題と同じミスを別の課題でしたり。その原因は、多くの場合、伝え方にあります。

映像制作工房LACとは

映像制作工房LACは、就労継続支援事業所様向けに、動画編集の学習カリキュラムを提供するサービスです。自社開発の学習管理システム上で利用者さまが動画講座の視聴や課題提出を進め、専門のサポーターがDiscordのテキストチャットで質問や相談に対応します。

ただし、目的は「動画編集ができる人」を育てることではありません。映像制作スキルの習得過程を通じて就労基礎動作を身につけ、就職につなげることが主な目的です。就職を目指さない方でも、事業所内で安定して活動できる人材になることを目指しています。

就労基礎動作とは、映像制作工房LACが定義する「働ける人」になるための5つの力です。自己管理、指示や指摘を受け取る力、報告・相談・質問する力、やり切る力、振る舞いを選択する力。これらは映像制作に限らず、どの職場でも求められる基本的な行動パターンです。

特に注目すべきは、LACの3層サポート構造です。問い合わせの約56%をbot(自動応答)で即時対応し(平均応答時間は11秒)、解決しない場合は専門スタッフであるサポーターがDiscordで対応(中央値7.5分)、複雑な案件はさらに運営が対応する(全体の6.7%)という設計です。これにより、事業所の職員が対応する場面を最小化し、利用者さまに一貫性のあるフィードバック環境を提供しています。

フィードバックが伝わらない3つの原因

支援者様が丁寧に説明しているのに、利用者さまに届いていない。その原因はいくつかあります。これは「フィードバックの伝え方」という問題だけでなく、「フィードバック環境そのもの」と密接に関連しています。

1. 抽象的すぎる指摘

「もっと丁寧に」「品質を上げて」「意識を持ってやって」。こうした指摘は相手に何をすればいいのかが伝わりません。支援者様の頭には「ここの色が浮いている」「この音声のレベルが高い」という具体的なイメージがあっても、言葉には抽象性が残ったままになりがちです。

特に発達障害のある方は、抽象的な指示を具体的な行動に変換する過程が苦手なことが多いです。「あの映像、もう一度見直してほしい」と言われても、どこをどう見直すのか判断できず、結果として同じ状態で提出される。これを「言ったのに直さない」と解釈してしまうと、関係にズレが生まれます。

2. フィードバックのタイミングが遅い

課題を提出してから数日後、別の作業をしているときにフィードバックを受けると、当時の状況や自分の思考が思い出せなくなっています。「なぜこうしたのか」という文脈が頭から消えているので、指摘が耳に入っていても行動に結びつきにくい。

発達障害のある方にとって「その場・その時」のフィードバックは、記憶と学習の定着を大きく左右します。映像制作工房LACが即時フィードバック設計にこだわるのも、ここに理由があります。LACの設計思想は「間違えた → 何が違ったか知る → もう一度やる」というサイクルを、時間を空けずに完結させることです。結果が後日返ってくる従来型のテストでは得られない「今この瞬間に学ぶ」体験を作ることで、つまづきが放置される時間をゼロに近づけています。

なお、このプロセスを支えるのが適応型テストです。理解度テストにおいて、回答の正誤に応じて次に出題される問題の内容や難易度が自動的に変わる仕組みです。オンライン学習では「どこでつまづいているか」が対面より見えにくいため、システム側で自動検知し、間違えた箇所の周辺を重点的に出題することで、「何がわかっていないのか」を利用者さん自身が把握できるようにしています。

3. 人格と行動が混ざっている

「ちゃんと見直していない」「気を抜いている」「やる気がない」。こうした指摘は、行動そのものではなく、その背後にある人格や態度に言及しています。利用者さま側では「自分が否定されている」と感じ、防衛的になります。結果、フィードバックの内容は頭に入らず、感情的な反発だけが残ります。

伝わるフィードバックの型

事実、影響、提案の3ステップ

効果的なフィードバックは、まず「何が起きたのか」という事実を客観的に伝えることから始まります。

例:「このシーン、背景の色が編集前と編集後でズレている。クライアント側で違和感を感じる可能性があるので、色調補正をかけ直してほしい」。事実(色がズレている)→影響(クライアントに違和感を与える)→提案(色調補正をかけ直す)という流れです。

感情的な評価を入れない。「手抜き」「不注意」といった解釈を加えない。あくまで「何が起きたか」に絞る。これが、フィードバックを行動の改善につなぐための最初の一歩です。

映像制作工房LACで採用されている「企業目線のフィードバック」は、まさにこのモデルに基づいています。単に「できる/できない」という学習者視点ではなく、「納期に間に合うか」「クライアントの要求を満たすか」という実務的な視点からフィードバックを返すことで、利用者さまは実案件と同じ環境にいるのと同じ基準で成長していきます。

サンドイッチ法を使わない理由

よい点→改善点→よい点という「サンドイッチ法」は、就労支援の現場ではむしろ逆効果になることがあります。

「ここはきちんとできていた。でもここは直して。ただ全体的には頑張っている」という伝え方をすると、利用者さまは「結局、自分は何ができていないのか」と混乱します。褒めるときと指摘するときを分けたほうが、メッセージが明確に伝わります。

できていることには「ここはできている」と明確に伝え、改善点は別に、事実ベースで伝える。褒めるときは感情的に、指摘するときは事実のみを端的に。この使い分けのほうが、相手にとって理解しやすく、次の行動につながりやすいです。

障害特性別のフィードバックの工夫

発達障害のある方へ

こまめに、できればその場・その時にフィードバックを返すことが重要です。完了後に時間が経つと、自分がなぜそう判断したのか、当時の思考が再現できなくなります。

指示は曖昧でなく、肯定的・具体的・視覚的に伝えます。「〇〇をしましょう」というシンプルな形で、図やイラストを使って説明する。「もっと丁寧に」ではなく「このトランジション部分、フレームを5フレーム長くしてください」と、数字や箇所を特定する伝え方です。

映像制作工房LACがテキストベースのフィードバックにこだわるのも、障害特性への配慮があります。テキストチャットは言葉を整理して送ることができ、理解できないときに何度でも読み返せる環境が、発達障害のある方にとって有効だからです。

多少の失敗がOKであることを、繰り返し伝えることも大事です。完璧を目指さず、改善を重ねるプロセスに価値があることを理解してもらう。そうすると、失敗を隠さず報告する行動にもつながります。

精神障害のある方へ

体調やメンタルの波を前提に、フィードバックのタイミングと方法を調整する必要があります。調子がよい時と悪い時で、同じ情報量のフィードバックをしても、受け取り方が大きく異なります。

その日の状態に合わせて、フィードバック量を調整する。重要な指摘に絞り、細かい指摘は別の日に持ち越す。こうした柔軟性が、長期的な関係構築には欠かせません。

知的障害のある方へ

理解度に合わせて、フィードバックの粒度を調整します。複数の改善点を一度に提示するのではなく、優先順位の高い1つか2つに絞る。その改善ができた後に、次のステップに進む方式です。

視覚的な説明と、何度の繰り返しにも対応する忍耐強さが重要です。

声かけのNG集 — よかれと思って言いがちな一言

「見直しが不十分だから」。これは行動の原因を勝手に診断しています。実際には、見直し方を知らなかったのかもしれない。見直しに充てる時間がなかったのかもしれない。原因を決めつけずに、「どうだった?」と本人に聞く方が、実態が見えます。

「前回も同じ指摘をしたよね」。前回のできごとを持ち出すのは、相手を責めるメッセージになります。今回の改善に集中させるなら、「これをこうするとよくなるよ」と前向きな提案だけを伝えましょう。

「〇〇さんはできているのに」。他者比較は、当事者の自己肯定感を著しく傷つけます。その人が何をできていないのかではなく、その人が何をできているのか、どう伸ばしていくのかにフォーカスする方が、本人の成長につながります。

「ちゃんとやらないと就職できないよ」。脅迫的な言い方は、一時的な行動改善には役立つかもしれませんが、長期的には恐怖と回避行動を生み出します。利用者さまが自発的に行動改善したいと思う環境を作ることが、就労支援の基本です。

段階的なカリキュラム設計とフィードバック

映像制作工房LACのフィードバック環境は、段階的なカリキュラム設計と深く結びついています。

ブロンズ前半(〜Section 3)では、課題が明確で手順が決まっているため、フィードバックも「手順通りにできているか」という判断基準が明確です。この段階では曖昧さを排除し、利用者さまは指示通りに進めて確認を受ける習慣をつけます。

ブロンズ後半(Section 3.1〜3.5)では難易度が上がり、「調べてから聞く」「整理して質問する」というより高度なフィードバック受け取り方が求められ始めます。完了でシルバー昇格となりますが、この段階を通じて利用者さまの自律性が大きく育っていきます。

シルバー段階(実案件)では、案件ごとの要件を読み取り、品質基準まで調整して完遂する必要があります。ここでのフィードバックはより実務的になり、「指示の抽象度」も段階的に上がっていきます。

指示が明確だった初期段階から始まり、やや曖昧な指示、そして案件ごとに異なる指示へと段階的に難易度を上げていくことで、利用者さまは自分のペースで「働ける人」に成長していきます。

フィードバックが活きる環境

映像制作工房LACのサポーターは、フィードバックを「その場で返す」設計を取ります。テスト結果はシステムから即座に返され、テキストチャットでの質問にもすぐに応答します。

支援者様がフィードバックの伝え方を工夫するのは、単に「言うことを聞く人にする」ためではありません。利用者さまが自分の行動を改善する、その改善プロセスを通じて「指示や指摘を受け取る力」という就労基礎動作を育てることです。