「困っています」と言えない利用者さまをどう見つけるか
対面で指導しているとき、利用者さまのつまづきに気づく手がかりは豊富にあります。手が止まっている。表情が曇っている。画面を何度も行き来している。こうしたサインを見て「何か困っていますか?」と声をかけることができます。
しかし、パソコンに向かってそれぞれのペースで学習を進めるオンライン型のカリキュラムでは、この手がかりが大幅に減ります。支援者様が横について見ているわけではなく、画面の向こうで何が起きているかは外からは見えません。
さらに厄介なのは、利用者さまの中には「わからない」と自分から声を上げることが難しい方がいることです。「こんなことを聞いたら迷惑かもしれない」「自分だけわかっていないのではないか」。そうした気持ちから黙り込んでしまい、わからないまま時間だけが過ぎていく。支援者様が気づいたときには、すでにモチベーションが大きく下がっている。
映像制作工房LACでは、適応型テストと即時フィードバックがこの検知を自動的に行います。
映像制作工房LACとは
映像制作工房LACは、就労継続支援事業所向けに、動画編集の学習カリキュラムを提供するサービスです。自社開発の学習管理システム上で利用者さまが動画講座の視聴や課題提出を進め、専門のサポーターがDiscordのテキストチャットで質問や相談に対応します。
ただし、目的は「動画編集ができる人」を育てることではありません。映像制作スキルの習得過程を通じて就労基礎動作を身につけ、就職につなげることが主な目的です。就職を目指さない方でも、事業所内で安定して活動できる人材になることを目指しています。就労基礎動作とは、自己管理、指示や指摘を受け取る力、報告・相談・質問する力、やり切る力、振る舞いを選択する力の5つです。
つまづきを放置するとどうなるか
支援の現場では、つまづきが放置される時間が長くなるほど、影響が大きくなります。
技術的な面で言えば、基礎が理解できていないまま先に進んでしまい、後の工程でさらに混乱します。カット編集の考え方がわからないまま、テロップやエフェクトの工程に進んでも、応用が利きません。
心理的な影響はさらに深刻です。わからない状態が続くと、「自分にはやっぱり無理なのかもしれない」という気持ちが芽生えやすくなります。特に、過去に何度も「できなかった」経験を重ねてきた方にとって、つまづきの放置はモチベーションだけでなく自己肯定感そのものに影響しかねません。
だからこそ、つまづきは「できるだけ早く」検知される必要があります。利用者さま本人が声を上げるのを待つのではなく、仕組みの側から「この方は今ここでつまづいている」と検知する。映像制作工房LACの適応型テストは、この早期検知を実現するためのものです。
適応型テストという仕組み
適応型テストとは、回答内容に応じて次に出題される問題の内容や難易度が変わるテスト方式です。教育工学の分野で広く研究されてきた手法で、英語ではAdaptive Testと呼ばれます。
一般的なテストでは全員に同じ問題が出題されます。80点だった場合、「20点分を間違えた」ことはわかりますが、なぜ間違えたのか、どこの理解が不足しているのかを特定するには、結果を一つひとつ分析する必要があります。
適応型テストでは、この分析をテストの最中にリアルタイムで行います。テロップの配置に関する問題を間違えた場合、次に出題されるのはテロップの基礎知識を確認する問題です。それにも間違えた場合は、さらに基礎的な内容に遡ります。逆に正解した場合は同じ領域を繰り返さず、次の領域に進みます。
得意な分野は短時間で通過し、苦手な分野は重点的に出題される。こうして「どこでつまづいているか」をシステムが自動的に特定していきます。
間違えたその瞬間に「手を差し伸べる」
適応型テストでつまづきを検知したあと、次に必要なのは速やかな対応です。ここで機能するのが即時フィードバックの仕組みです。
即時フィードバックとは、テストの結果をその場ですぐに返す仕組みです。問題を解いて送信すると、正誤の判定とともに、間違えた場合は「なぜ間違いなのか」「正しくはどうするのか」の説明がすぐに表示されます。
従来型のテストでは結果が返ってくるまでに数日かかることもあります。直後であれば「あの問題、どう答えたっけ」と思い出せますが、時間が経つと記憶は薄れます。特に、時間が経つと文脈を思い出しにくくなる方にとって、この遅延は学びの質を大きく損ないます。
即時フィードバックでは、「間違えた→何が違ったか知る→もう一度やる」というサイクルが時間を空けずに完結します。記憶が新鮮なうちに理解を修正できるため、学びの定着度が格段に高まります。
検知と対応が自動で回り続ける
適応型テストと即時フィードバックは、それぞれ単独でも効果がありますが、組み合わさることで大きな相乗効果を生みます。
たとえば、ある利用者さまがカット編集の課題でつまづいているとします。適応型テストがそのつまづきを検知し、基礎知識を確認する問題を出題します。利用者さまが回答すると、即座にフィードバックが返り、正しい手順が示されます。その場で理解を修正し、次の問題に進む。再び同じ領域で間違えた場合は、さらに基礎的な問題が出され、再度フィードバックが返る。
このループは人の介入なしに回り続けます。サポーターがチャットで質問に答える前の段階で、システムが一次対応を行っているということです。サポーターは、この一次対応では解決しなかった、より複雑な問題や個別の文脈に依存する相談に集中できます。
対面指導を代替するのではなく補完する
ここで重要なのは、適応型テストと即時フィードバックは対面での支援をなくすためのものではない、ということです。
利用者さまの表情を見て「今日は調子が悪そうだな」と気づくこと、「最近がんばっていますね」と声をかけること、面談で将来の希望を一緒に考えること。これらは人間にしかできない支援であり、映像制作工房LACはこの部分を事業所の支援者様にお任せしています。
システムが担うのは「技術的なつまづきの検知と一次対応」です。これをシステムが引き受けることで、支援者様は技術的なトラブルシューティングから解放され、生活面のケアや関係構築に集中できる環境が生まれます。
また、テスト結果は支援者様にとって有用なデータにもなります。「この利用者さまはカット編集の基礎理解が不安定である」「テロップのデザイン判断で迷いが多い」といった傾向が蓄積されるため、面談で「テスト結果を見ると、カット編集のあたりで少し苦戦しているようですが、何か困っていることはありますか?」と、具体的なデータに基づいた問いかけから会話を始められます。
苦手を「恥ずかしいもの」にしない
適応型テストにはもう一つ大切な側面があります。利用者さま自身の自己理解を助けることです。
テスト結果は「あなたは何点です」という単一の数字ではなく、「この領域は理解が安定している」「この領域はもう少し復習が必要」という形で示されます。苦手は「恥ずかしいもの」ではなく「今の通過点」として捉え直せる設計です。
就労の現場でも、自分の得意と不得意を客観的に把握していることは大きな強みになります。「この作業は得意ですが、こちらは少し時間がかかります」と自分から伝えられる人は、周囲にとっても仕事を任せやすい存在です。
仕組みで支えるという設計思想
支援の現場では、支援者様の熱意と能力によって支援の質が左右されることが少なくありません。観察力のある支援者様がいればつまづきに気づけるが、その方が異動や退職をすると気づきの質が一気に下がる。映像制作工房LACは、つまづきの検知という「気づき」の機能をシステムに組み込むことで、特定の個人に依存しない支援体制を支えています。
技術面のつまづきはシステムが検知し一次対応する。それでも解決しない場合はサポーターが対応する。感情面のケアや生活面の支援は事業所の支援者様が担う。この三層の役割分担があることで、誰か一人に負荷が集中する状態を防ぎ、利用者さまにとっても支援者様にとっても持続可能な体制が維持されます。