あの人はどんどん進むのにこの人は全然進まない
同じ事業所で、同じ日にLACを始めた利用者さまが2人いるとします。1か月後、片方は36課題を完了している。もう一方は、まだ1課題も終わっていない。
支援者様としては、どうしても気にかかるはずです。「この差は何なのか」「遅い方に何か問題があるのではないか」「声をかけるべきか、見守るべきか」。ペースが上がらない利用者さまを見ていると、つい「もう少しがんばってみようか」と促したくなることもあるでしょう。
映像制作工房LACの実績データを見ると、月あたりの課題完了数は利用者さまによって0.4課題から36.0課題まで、実に10倍以上の開きがあります。しかし、この差が生じること自体は全く問題ではありません。むしろ、こうした個人差を前提としてカリキュラムを設計しています。
映像制作工房LACとは
映像制作工房LACは、就労継続支援事業所様向けに動画編集の学習カリキュラムを提供するサービスです。自社開発の学習管理システム(LMS)上で利用者さまが動画講座の視聴や課題提出を進め、専門サポーターがDiscordを通じて質問や相談に直接対応します。
ただし、私たちの目的は「動画編集のプロ」を育てることではありません。映像制作スキルの習得過程を通じて、就労基礎動作を身につけ、就職につなげることが本来の狙いです。就職を目指さない方であっても、事業所内で安定して活動できる人材になることを目指しています。
就労基礎動作とは、映像制作工房LACが定義する「働ける人」になるための5つの力です。自己管理、指示や指摘を受け取る力、報告・相談・質問する力、やり切る力、そして場面に応じた振る舞いを選択する力。これらは映像制作に限らず、あらゆる職場で求められる基本的な行動パターンです。
一律のペースを求めない設計思想
映像制作工房LACのカリキュラムには「月に何課題こなすべき」というノルマがありません。これは意図的な設計です。
利用者さまの通所日数は人によって異なります。週5日の方もいれば、週2日の方もいる。一日の中でLACに取り組める時間も、体調や他の活動との兼ね合いで変動します。障害特性によって、集中を維持できる時間の長さも千差万別です。
こうした前提がある中で「全員同じペースで進もう」と求めることは現実的ではありません。それは利用者さまにとっても、支援者様にとっても、不必要なプレッシャーを生むだけです。
私たちが重視しているのは「速さ」ではなく「継続」です。月に1課題であっても、前に進んでいれば問題はありません。重要なのは「止まっていないかどうか」の一点です。
支援者様が見るべきは速さではなく動き
では、支援者様は何を指標にすればよいのでしょうか。学習管理システムには各利用者さまの進捗が詳細に記録されています。ここで注目すべきは「いつ最後に課題を完了したか」という日付です。
月に2課題しか完了していなくても、直近1週間以内に課題を提出していれば、その方は自身のペースで学習を継続できています。この場合、急かすような声かけは不要です。
一方、2週間以上にわたって全く動きがない場合は、何らかのサインかもしれません。体調の変化、モチベーションの低下、あるいはカリキュラムのどこかでつまずいている可能性もあります。理由は様々ですが、「動きが止まっている」という事実は、支援者様が声をかける適切なきっかけになります。
「最近どう?」「困っているところはない?」。こうした声かけは、学習が遅いから行うのではなく、動きが止まっているから行うものです。この区別を明確にすることが、支援者様と利用者さま双方の安心につながります。

遅いというプロセスが育てるもの
月に数課題しか進まない利用者さまは、一見すると「成果が出ていない」ように映るかもしれません。しかし、低速で進んでいる方の中には、一つひとつの課題に極めて丁寧に向き合っている方がいます。
動画講座を何度も見返す、提出前に自ら入念に確認する、不明点をWikiで調べてから質問する。これらの行動は、就労基礎動作の観点から見れば非常に価値のある習慣です。「自己管理」や「やり切る力」が、ゆっくりとした歩みの中で着実に育まれています。
逆に、速いペースで進む方が必ずしも優れているとは限りません。内容を十分に理解しないまま先を急いでいる場合、後々大きな壁にぶつかるリスクがあります。LACでは適応型テストが理解度を自動で検知しているため、速さに対して理解が伴っていなければ、その場ですぐに修正を促す仕組みになっています。
個人差のデータを個別支援計画に活かす
利用者さまごとに異なる学習ペースのデータは、個別支援計画の策定に直接活用できます。
「この方は週2回の通所で月に4課題のペース。このままいけばシルバー到達まであと3か月程度」。こうした見通しが立つことで、面談での目標設定が具体性を帯びます。「がんばりましょう」といった精神論ではなく、「今のペースを維持すれば届くから、焦らなくて大丈夫」と根拠を持って伝えられるようになります。
保護者への報告でも、「映像制作を続けています」という抽象的な説明から脱却できます。「現在はブロンズ後半で、就労基礎動作の訓練段階にいます。ペースは緩やかですが、確実に前進しています」と、事実に基づいた報告が可能です。データがあるからこそ、「ゆっくりでも大丈夫」という言葉に説得力が生まれます。

個別のペースを許容する環境が就労基礎動作を養う
「自分のペースで進めていい」という環境は、単なる放任ではありません。
自らの速度で学習を続ける中で、利用者さまは「今日はここまでやろう」「今週は調子がいいから多めに進めよう」といった判断を自分で行うようになります。これこそが、就労基礎動作における「自己管理」の本質です。
一律のペースを強制される環境では、こうした自己管理の訓練はできません。自分で区切りをつける経験が、将来の職場で「自身の仕事量を把握し、適切に報告する」力へとつながります。
映像制作工房LACが個人差を許容しているのは、その余白にこそ就労基礎動作が育つチャンスがあると考えているからです。速い人も遅い人も、それぞれの歩幅で「働ける人」に近づいている。支援者様には、その過程をデータと共に安心して見守っていたいただける体制を整えています。