支援現場で、こんな場面に出会ったことはないでしょうか。「この利用者さまは質問をよくしてくれるのに、なぜか作業の質が上がらない」「聞き方は上手いのに、作業速度や正確性が伸びない」。こうした悩みを抱えている支援者様は少なくないと思います。

質問ができるなら理解できているはず、理解できているなら仕事の質も上がるはず。そう考えるのは自然です。ただ、この「質問力と成果のズレ」は、利用者さまがまさに次の段階に差しかかっているサインでもあります。

映像制作工房LACとは

映像制作工房LACは、就労継続支援B型事業所様向けに動画編集の学習カリキュラムを提供するサービスです。利用者さまはLMS(学習管理システム)上で講座の視聴と課題提出を進め、技術的な質問にはDiscord上でbot・サポーター・エスカレーションの3段構造で対応しています。事業所様の支援者様が技術面を教える必要はありません。

LACの目的は「動画編集ができる人」を育てることではなく、映像制作の習得過程を通じて就労基礎動作を身につけ、就職につなげることにあります。就労基礎動作とは、自己管理、指示・指摘を受け取る力、報告・相談・質問する力、やり切る力、振る舞いを選択する力の5つです。

ランク制度と6軸評価

LACにはブロンズ前半、ブロンズ後半、シルバー、ゴールドというランク制度があります。ブロンズ前半では技術の基礎を固め、ブロンズ後半からは技術に加えて就労基礎動作が問われるようになります。「調べてから聞く」「整理して質問する」といった力が求められ始める段階です。ブロンズ後半を修了するとシルバーに昇格し、実案件に取り組みます。

利用者さまのスキルは、作業速度、正確性、理解力、質問力、修正対応力、安定性という6つの軸で評価しています。それぞれ0.1刻みで0.5から5.0までスコアリングし、D、C、B、Aなどのランク表記に対応しています。この6軸評価を月単位で追跡することで、「何ができていて何が課題なのか」を数値で把握できます。以下のデータはすべて2026年3月時点の匿名集計値です。

データが示す質問力と成果のズレ

6軸評価の集計を見ると、利用者さま全体の34%で、最も高い軸と最も低い軸の間に2.0以上の開きがあります。そしてそのうち77%に共通しているのが、質問力が最も高い一方で正確性や作業速度が低いという傾向です。

6軸の全体平均はいずれもB+前後の水準で、質問力が3.04、修正対応力が3.09とやや高く、作業速度が2.94、正確性が2.93とやや低めです。全体としては大きな差ではありませんが、「質問はできているのに、成果物にそれが反映されていない」という傾向が、数字の上にもはっきり表れています。

最高評価のS(5.0)に到達した実績は全部で10件ありますが、そのうち7件が作業速度、2件が正確性、1件が修正対応力での達成です。質問力でS評価に届いた利用者さまはいません。平均値では最も高い軸でありながら、突き抜けた成果にはつながっていない。質問する力と、高い精度で仕上げる力は、別のものだということが見えてきます。


就労基礎動作で読み解くと

LACの就労基礎動作に照らすと、質問力は「報告・相談・質問する力」に該当します。一方、正確性や作業速度に関わるのは「やり切る力」、つまり最後まで仕上げる、やり直しに向き合うという力です。質問力が高い利用者さまは、わからないことを言葉にして伝える力がすでに育っています。しかし、自分の作業を振り返って精度を上げていく力は、また別の就労基礎動作なのです。

LACの3層構造でいえば、この「自分の作業を客観的に見る力」は第1層のメタ認知力にあたります。メタ認知力は就労基礎動作よりもさらに土台にあたる力で、すべての層を支えています。修正対応力の平均が3.09と質問力に近い水準にあるのは、支援者様やサポーターから指摘されれば対応できるけれど、指摘がなければ自分では気づけないという段階を示しています。

修正回数から見える段階

運用データでは、修正率(1件の課題あたりの修正回数)が3.0以上の事例が12件記録されています。最も高いケースでは修正率7.0、つまり1つの課題を仕上げるまでに7回のやり直しが発生しました。

こうした利用者さまは、質問もしますし、サポーターからの修正指示にもその都度応じています。それでも何度もやり直しになるのは、説明を聞いた時点では理解できていても、自分で作業に落とし込む段階で抜け漏れが起きているからです。「報告・相談・質問する力」は身についていても、「やり切る力」がまだ追いついていない段階だといえます。

一方で、完了率100%を維持している利用者さまの中でも、平均修正回数には0.55から2.22まで幅があります。同じゴールに到達していても、そこまでの道のりは一人ひとり異なります。

支援者様にできること

LACでは、技術的な質問対応はbot・サポーター・エスカレーションの3段構造がカバーしています。支援者様が技術指導を行う場面はありません。だからこそ、支援者様が注力できるのは利用者さまの就労基礎動作の成長を後押しすることです。

質問力が高い利用者さまに対しては、その強みを認めたうえで「やり切る力」を意識した関わりが効果的です。たとえば、課題の提出前に「自分で見直す時間」を設けるよう声をかける。修正が入ったあとに「今回はどこを直しましたか」と振り返りを促す。6軸評価のうちどの軸が伸びしろかを一緒に確認し、次の目標を立てる。こうした日々の関わりを通じて、質問する力が成果を仕上げる力へと広がっていきます。

ブロンズ後半の利用者さまにとって、この段階は「技術は覚えた、でもそれだけでは働けない」という壁に向き合う時期です。質問力と成果のズレに気づいた支援者様が、就労基礎動作の視点で関わることが、シルバー昇格への後押しになります。


まとめ

質問はできるのに成果が出ない。それは停滞ではなく、利用者さまがブロンズ後半からシルバーへの移行期にいるサインです。「報告・相談・質問する力」が育った利用者さまが、次に「やり切る力」を伸ばしていく。その橋渡しを支援者様が担うことが、事業所様全体の支援の質を高めることにつながります。