障害のある人が働けるかどうかを、海外ではどこで、どれくらいの時間をかけて確かめているのか。アメリカ、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、オーストラリアの研究と制度を見ていくと、共通点がはっきりします。1回の面接やテストで決めず、本物の仕事や職場の中で、時間をかけて確かめていることです。この記事では、ショート動画15本の内容を4つの章に整理し、動画に入りきらなかった数字や研究の限界を足しました。

第1章 面接では見えないもの

数秒で決まる第一印象

アメリカのSassonらの研究(2017年)では、自閉スペクトラム症のある大人20人と、ない大人20人が話す様子を撮影し、その最初の10秒ほどを214人の大学生が評価しました。評価する人は、映像と音声、音声だけ、映像だけ、静止画、話した内容の書き起こしのどれか1つだけを見ています。

自閉スペクトラム症のある人は、書き起こし以外のすべての形で低く評価されました。一方で、書き起こしを読んだ人の評価には、はっきりした差が出ませんでした。差を生んでいたのは、話の中身ではなく、話し方や見え方だったと考えられます。

聞く側が変わると差が縮む

イギリスのバース大学などのMarasらの研究(2021年)では、自閉スペクトラム症のある大人25人と、ない大人25人が模擬面接を受けました。答えは書き起こされ、障害の有無を知らない採用の専門家が評価しています。1回目は、自閉スペクトラム症のある人の評価が低く出ました(5段階で平均3.41対3.91)。

約6か月後の2回目では、質問を1つずつに分け、「どんな状況だったか」「何をしたか」「結果はどうだったか」を順に聞き、質問を印刷した紙も渡しました。すると両方のグループの評価が上がり、差ははっきりしたものではなくなりました。ただし2回目まで参加したのは各21人と少なく、仕事の内容を決めない模擬面接だった点は、著者らも限界として挙げています。

面接を置きかえた会社

デンマークで2004年に生まれた会社は、自閉スペクトラム症の人の採用で、面接の代わりにレゴのロボットを組んでもらいます。見るのは完成品ではなく、箱の開け方、説明書を読むか、困ったときに助けを求めるかという過程です。そのあと2週間のプログラムで働き方を確かめます。企業の発表では、2004年からの就職は1万人を超えています(2021年の報道)。

アメリカのマイクロソフトは2015年から、ニューロダイバーシティの人向けに1週間の採用イベントを開いています。チームの課題はマインクラフトの中で行い、本番の前に模擬面接もあります。ドイツのSAPは2013年から、レゴの課題、チームの課題、約5週間のトレーニングを経てから配属しています。始めたときの目標は、2020年までに全社員の1%でした。

オーストラリアでは、国防省などの政府機関や銀行が、自閉スペクトラム症の人の採用プログラムに加わっています。入口は約4週間の実技のアセスメントで、そのあと3年間、ソフトウェアのテスト、サイバーセキュリティ、データ分析の仕事で育てます。独立した研究によると、初年度の35人の定着は89%でした。

第2章 人ではなく職場を見る

診断名から配慮は予測できない

2026年10月2日、イギリスの雇用年金省の専門家委員会が最終報告を出しました。職場の支援は一人ずつの困りごとで決め、正式な診断を条件にしないよう提言しています。報告には「診断名から、どの配慮が必要かを予測できるという証拠はない」と書かれています。採用では、ワークサンプルや職場体験、面接の質問を先に渡すことをすすめています。

背景には就労の差があります。2024年のバックランド報告では、イギリスで働いている自閉症の人は10人に3人で、障害者全体の10人に5人、障害のない人の10人に8人と比べて低い水準でした。

職場の障壁を報告書にする

イギリスには、働く人の支援を決めるときに職場を評価する仕組み(Access to Work)があります。評価する人が職場を訪ね(ビデオ通話のこともあります)、本人の能力ではなく、その職場の障壁と解決策を報告書にまとめます。報告書は本人に渡り、雇用主には渡りません。雇用主に届くのは支給の決定だけです。1人あたりの支援の上限は、1年で69,260ポンドです。

配慮の6割は費用ゼロ

アメリカには、職場の配慮について相談できる、労働省が出資する無料の窓口(Job Accommodation Network)があります。2019年から2024年に相談した雇用主の調査では、配慮の61%は費用がかかりませんでした。一度だけ費用がかかった配慮は33%で、その中央値は300ドルです。相談の56%は今いる社員を辞めさせないためのもので、効果として多かったのは社員の定着(85%)と生産性の向上(52%)でした。

本人だけを細かく測る評価の限界

海外の労災では、持ち上げや運ぶ作業をしてもらい、どのくらいの重さの仕事ができるかを判定する評価(機能的能力評価)が使われます。腰を痛めた人を対象にしたGrossらの研究(2004年)では、この評価の成績と、仕事に戻れたかの関連は弱いものでした。しかも、床から腰の高さへの持ち上げという1つの課題だけで、全体と同じくらいの予測ができました。測る項目を増やしても、1回のテストで分かることには限りがあります。

第3章 休んだ人を職場に戻す

ドイツ 6週間を超えたら会社が提案する

ドイツでは2004年4月から、1年のうちに6週間を超えて働けなかった社員がいると、会社は職場に戻るための話し合いを提案しなければなりません。障害者手帳の有無は関係なく、全社員が対象です。ただ2018年の調査では、提案を受けた人は40%にとどまりました。提案を受けた人の68%は、話し合いに参加しています。

オランダ 給料を会社が最長2年払う

オランダでは2002年の法律で、病気で休んだ社員の給料を会社が最長2年払います。そのあいだ、6週目に産業医が分析し、8週目に計画を立てて、復職をめざします。努力が足りないと判断されると、給料を最長52週、追加で払うことになります。障害年金を新しく受け取る人の割合は、2001年の1.5%から、2012年には約0.5%に下がりました。休んでいる間の負担を会社に持たせ、評価と復職を急がせる仕組みです。

同じ障害でも国で6倍違う

脊髄損傷のある人の国際調査(2020年)では、22の国で9,875人に同じ質問をしました。働いている人の割合は全体で38%でしたが、国によって10.3%から61.4%まで、およそ6倍の差がありました。31か国の新しい調査(2026年)では、職業リハビリを受けたことが、働くことを押し上げる要因でした。

第4章 学校から仕事へ

計画に「働く」と書く

アメリカの39の州、30,888人の調査(2024〜2025年度)では、知的障害や発達障害のある人で、地域で有給の仕事をしている人は17%でした。仕事が無い人の45%は、働きたいと答えています。最低賃金以上で、障害のない人と一緒に働いている人は5%です。

DuBoisらの研究(2024年)では、支援計画に就労の目標が書かれている人は、そうでない人と比べて、一般の職場で働いているオッズが4.5倍高いという結果でした。これは関連であって、計画に書いたから働けるようになったという原因とは言えません。

在学中の有給の経験と親の期待

アメリカの全国追跡調査を使ったCarterらの研究(2012年)は、重い障害のある若者が卒業後に働けるかを調べました。在学中に有給で働いた経験があると、卒業後に働くオッズは2.41倍でした。学校の無給の実習には、関連が見られませんでした。親が、有給の仕事に就けると強く期待していると、オッズは約5倍でした。障害の種類は、卒業後に働けるかを予測しませんでした。

保護工場をゼロにした州

アメリカのバーモント州は、2002年に最後の保護工場を閉じました。全米で最初です。発達障害のサービスを使う人の就労率は、1996年に州が20%、全米が22%でほぼ同じでしたが、2021年には州が47%、全米は約22%のままでした。働く人は、1996年の263人から、2019年には1,353人になっています。支えたのは、職場で働きながら支援が続く援助付き雇用です。

1年を職場で過ごす

アメリカのプロジェクトサーチでは、学年の1年を企業や病院の中で過ごし、部署を変えて3回、1回10〜12週の実習をします。1年を通して評価し続ける仕組みです。公式サイトによると、修了した人の67%が就職しています。自閉症の若者156人のランダム化比較試験(2020年)では、修了後1年以内の一般就労が73.4%、比べた群は17%でした。

一方で、イギリスの評価報告(2026年)では、雇用主やメンターが本人を傷つけるのを恐れて評価が甘くなることが、課題として挙げられています。職場で見る評価にも、見る側の工夫が要ります。

支援の現場で使えること

15の事例からは、本人の練習だけでなく、評価する場と時間を変えることで見え方が変わることが分かります。面接練習に加えて、職場実習やトライアル雇用で働く様子を見てもらう準備をしておくと、本人の力が伝わりやすくなります。

支援計画に就労の目標を書くこと、在学中や利用中に有給で働く経験をつくることは、研究で関連が見られた点です。原因とまでは言えませんが、計画を見直すときの確認項目にできます。

企業の担当者へ

海外の企業や政府機関は、1回の面接ではなく、実技や数週間のトレーニングを入口にしています。日本でも、障害者雇用促進法 第36条の2により、事業主は募集と採用の場面で、本人の申出に応じて障害の特性に配慮した措置をとる必要があります(過重な負担となる場合を除く)。質問を1つずつに分ける、質問を紙で示す、職場実習で働く様子を見るといった工夫は、研究や事例で効果が見られたものです。

配慮の費用についても、アメリカの調査では6割が費用ゼロでした。配慮を考えるときは、診断名から決めるのではなく、本人と職場の困りごとから話し合うことが出発点になります。

今日のポイント

働く力は、1回の面接より、実際の仕事の中で見えてきます。評価の場所と時間を変えることが、支援と採用の両方の出発点です。

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出典(確認日 2026年10月10日)

この記事の案内役 結城ユイは、制度と実務の解説の案内役(架空のキャラクター)です。監修:合同会社RP 代表 ミネストローネ