チック症の当事者YouTuberとして登録者9万人を超えたタカハシさん。浪人を経て国立大学に進学し、就職活動では障害者雇用の壁にぶつかりながらも、精神障害者の就労を支援する一般社団法人への入社を決めました。映像制作の極意から「狭間の障害者」の居場所の話まで、対談で深掘りしています。

インタビュー

静岡県浜松市に住んでいます。静岡大学の情報学部に通っていて、「チック症のタカハシ」という名前でYouTubeの活動をしています。チャンネル登録者は9万人を超えました。

高校の時はどちらかというと陰キャ寄りの感じで、受験の時にしんどい思いがありました。現役の時は1個も受からなくて、ほぼどこも受けられないような状態でした。そこから1年間浪人して静大に合格しています。志望理由は、センター試験で古典がなくて2次試験が英数のみだったからです。体調がよくなってきたのもあって、やるしかないという気持ちで1年間やりました。結局は行ってよかったなと思っています。

大学生活は正直楽しくなかったです。友達もそんなに多くないし、やりたいこともなかった。振り返ってみると、意外とみんなに流されて生きていた部分があります。今は楽しいですけど。

YouTubeは一昨年くらいに始めました。もともと動画を作ること自体が好きで、工作とか趣味のチャンネルをやっていたんですけど、ジャンルが弱くて何をしても伸びなかった。いいネタがないかなと探していたら、自分のチック症というすごいネタがあるじゃないかと。最初は同じ病気の人とちょっと話せたらいいなくらいの気持ちで、顔出しもしていませんでした。

登録者が伸びたのは2回の山があります。1回目は登録者1,000人もいかない頃から一気に2万〜3万人まで上がって、2回目はショート動画が伸びた時に9万人くらいまでいきました。チック症の自分にフォーカスを当てたVlogが跳ねた感じです。1個伸びたらそれに関連して他の動画も伸びてという流れでした。

このあいだ就職が決まりまして、一般社団法人に入ります。主に精神障害者の方に仕事を紹介する事業をやっている会社で、自分は広報として動画を作っていく形です。今までの発信活動、自分で言うのもなんですけどインフルエンサー的に障害のことを発信してきたことを買っていただきました。

対談 YouTubeの極意と「狭間の障害者」

ーーー就職活動はどんな感じでしたか。

大学4年の3月に合同説明会に初めて行って、障害者雇用でいくつか応募しました。でも蓋を開けてみたら、大きな企業の障害者雇用にはインテリな障害者の方がいっぱい来るんです。特に精神障害者よりも身体障害者の方が就職できる率は高い。結構落ちました。某大手通信企業では最終面接まで行ったのに「うちは障害者雇用ないよ」と言われて、調べてみたら特例子会社というものがあった。全然インクルーシブじゃないじゃないかと思いました。

普通にわりと大きめの会社にもESを出して面接も受けたんですけど、おそらく自分の障害のせいで落とされるという経験をして、その時に頭にきたんです。こんな世の中変えないといかんなって。じゃあ自分のやりたいことをやってやるってなって、今の会社に入ったというのもあります。障害者雇用だから簡単に大企業に入れるなんて甘いもんじゃなくて、然るべき人が然るべきやり方で使う制度なのかなと思います。

ーーーYouTubeでのコンテンツ作りで気をつけていることはありますか。

特に初期の頃は自分のことなんてほとんど誰も知らないので、チック症に関する情報を中心にやっていました。「チック症のタカハシ」というより「チック症の男の子」みたいな感じです。チャンネルをどうしていきたいか、自分がどうなりたいかと聞かれると正直目標がなくて。いろいろな人を巻き込んでもっと大きなことができたらいいなとは思うんですけど、どうやればいいのかもわからないので、まずは今の会社でコツコツ頑張っていきたいと思います。

ーーー撮影も編集も全部ご自分でやっていて、一番面白い工程はどこですか。

やっぱり編集ですね。いかに話をわかりやすく編集するかが大事だと思っていて、前後を逆転させる場合もあります。視聴者の人が負担なく道順を追っていけるような編集にすることが大事です。

ーーーASDやADHDの方だと、関係ないことをずっと喋ってから結論を言うみたいなところがありますよね。

そうなんです。でも編集でそこをカットすれば、まともなことを言っているように見える。喋りたいことを喋っている人に対して、こっちでそれに合う質問をテロップで与えれば正しい答えを言っているようになる。それ自体が喋ることのリハビリにもなると思っています。

ーーー編集と発信、どっちが好きですか。

動画は編集が終わった時点で完成はしているけど、それを見られてどうなるかというものでもある。見られていることがすごく好きです。ただ、YouTubeにおいては編集はあまり意味がなくて、演者の影響力やキャラクター、企画と今何が求められているかが大きい。HIKAKINが寝ているだけの動画を出しても50万再生くらいいくと思います。誰がやるか、そんな感じだと思います。

ーーー今から発信したい人に何をアドバイスしますか。

まずは好きな動画を作って、編集のスキルをまず上げましょう。編集ができるようになったら、その先は編集では上に行けないから、自分にしかない特異なものを見つけて出してみる。何チャンネルも作って、運よく1本当たるのがあれば、そこに全部リソースを割けばいいんじゃないかなと思います。自分で発信したいけど編集の能力がないという人は、私に連絡いただければ初歩的なところはお教えできます。

ーーー発達障害や精神障害の方は、人に頼らないと生きていけないのに頼る部分に障害を持っていると思うんです。コミュニケーションで気をつけていることはありますか。

そこそこ人の気持ちはわりと理解できる方なので、あまり苦労はしないんですけど、自分が素でいても大丈夫な人間を近くに置く。そもそもコミュニケーションで気をつけなくてもいい人としかつるまない、そんな感じですね。

ーーー福祉で自分に人的リソースが割かれることについてはどう考えますか。

例えば僕1人の障害がめっちゃ重かったとして、僕1人が輝くために福祉の人1人の人生を無駄にしてるだろって思っちゃうんです。他の人に助けてもらってまで生きるべき輝かしい人生なのかという点では、頑張って輝かせるしかないというか、自分の価値は高めないといけないなと思っています。

ーーー僕らって障害者の中でいったら軽い方ですよね。でも健常者じゃない。そこの人たちって結構難しいよねという話をしていて。

めっちゃわかります。健常者のコミュニティには入れない。障害者のコミュニティに行っても「あなたみたいな軽い人が何来てるの」みたいになる。定型発達の人にも擬態しないといけないし、発達障害の人にも擬態しないといけない。どこにもホームがないんですよね、居場所がないというか。

ーーー日常生活でこれは厳しいなと感じることはありますか。

就職ですね。障害者雇用は然るべき人が然るべく使ってほしいと思うので、ちょうどいいところがない。発達障害あるあるを聞いてもあまりピンとこないこともあって、自分ってこのコミュニティにも属していないんだという疎外感を感じることがあります。中途半端な発達障害の人のコミュニティを作るというのもあるけど、言い方に角があるし、他の人に反感を買いそう。主語が「じゃない」だとコミュニティになりづらいんですよね。マイノリティの中のマイノリティ、すごく少ないんです。

ーーーそういう狭間にいる人間として、獲得していきたいものはありますか。

自分は結構あらゆることに寛容になれる気がしますね。両方に渡っているから、翻訳して伝えられる力がある。

編集後記

タカハシさんの話を聞いていて最も印象に残ったのは、「狭間の障害者」という言葉でした。健常者のコミュニティにも障害者のコミュニティにも完全には属せない。定型発達にも発達障害にも擬態しないといけない。どこにもホームがないという感覚は、障害の軽重では測れない独特のしんどさだと思います。

工作チャンネルが伸びなくて「チック症というすごいネタがあるじゃないか」と始めたYouTubeが9万人に届いたこと。就活で障害のせいで落とされた怒りから「こんな世の中変えないといかん」と動き出したこと。タカハシさんの行動の起点には、不条理に対する率直な怒りがあります。それを悲壮感なく、軽やかに語れるのがタカハシさんの持ち味だと感じました。

対談の終盤で出てきた「両方に渡っているから翻訳して伝えられる」という話は、狭間にいることの苦しさをそのまま強みに転換する発想でした。障害者でも健常者でもないという中途半端さが、双方の橋渡しができるスペシャルな立ち位置でもある。そう言い切れるタカハシさんが、これから障害者の就労支援に動画の力で関わっていくことに、大きな可能性を感じています。