銀行員を5年9ヶ月務めた後、退職して田舎の家賃0円の一軒家で暮らしている無職さん。「あえて働かない」という選択の背景と、その生活の現実をインタビューと対談でお届けします。
インタビュー
無職さんで、29歳になります。出身が大阪で今も大阪ですね。4大卒で、学部は教育系になります。趣味はもうTwitterですね。いろんな人から反応をもらえるところと、リアルでは会えなかった人と実際に会って交流できるのが一番面白いです。オフ会とかにも参加するので、そこで人と繋がれるのが面白いところかなと思います。
障害でいうと一応発達障害で、ADHDとは言われています。手帳は持っていなくて、診断も下りてないんですけど、欲しかったら診断下ろせるよみたいな状態ですね。4年前くらいに確認のために行った感じで、特に変わりはなかったです。小学校の頃はよく喋る子で、ずっと先生に言われてたりはしたんですけど、それでめちゃめちゃ困ったかというと、そこまでもなかったかなと思います。
中学くらいの段階では高校卒業したら働こうかなくらいに思っていました。ターニングポイントは大学受験ですね。通っていた塾の塾長の勧めで一回本気で勉強してみようかなと思って、そこで本気を出したら割といいところに行けました。そうじゃなかったら銀行員にはなっていなかったと思います。
銀行との相性はめちゃめちゃ悪かったですね。入って1週間で気づきました。事務作業とか数字を扱うところが特に苦手で。途中から営業に出たので、そっちは全然いけたんですけど。字を書くのも苦手なので、履歴書を作るのもしんどかったです。
5年9ヶ月働いた銀行を退職して、田舎の一軒家を家賃0円で借りることができたので、そこでゆっくり過ごしながら田舎暮らしの生活をYouTubeやTwitterで配信するという活動をしています。過集中も割とある方なので、動画編集だと作り始めてから終わるまで何時間もずっと続けてしまう。ご飯も食べないでずっとやっちゃうんですけど、働いていたら問題になると思いますが、今はそれで問題が何もないので、活きているのかもしれないですね。
辞めた時の感覚としては、何とかなるかなと思って辞めたんですけど、1年半経って、想定していたよりは何とかなっていないというのが現状です。楽にはめちゃめちゃなりました。自分で全部決められるので。ただ生活的には多少厳しくなっています。SNSで発信していると、フォロワーさんが遊びに来てくれたり、逆にどこかへ行った時にフォロワーさんが会いに来てくれたりするので、それが一番よかったなと思っています。
人間、意外と何もしなくても死ぬことはないので。しばらくゆっくりしてほしい。早く立ち直ることが正義じゃないかなと思いますので、最終的に立ち上がれたらそれでいいんじゃないかなと思います。ゆっくり休んでください。
対談 無職という選択のリアル
ーーー無職さんの生活は、少ない収入でギリギリの節約生活というよりは、あえて働かない選択をしているという文脈で聞いています。具体的にどうやって生活を成り立たせているのか教えてください。
去年の話でいうと、入ってくる分は退職金と失業手当、あと投資の運用益ですね。去年は投資がうまくいっていたので。支出は家賃が0円なんですけど、生活費と交際費は結構かかります。旅行もするので月によってぶれますけど、去年は入ってくる方が多かったです。ただ今年は投資で日経ダブルインバースを大量に買いまして、現時点でマイナス63万円。今年は貯金を切り崩しています。
ーーー銀行にいた経験を活かして個人で仕事を受けたりもされていたんですね。銀行を辞めた経緯を教えてもらえますか。
4年目、5年目くらいから、自分の中にたまるものがあるかどうかということを考えるようになりました。スキルとか知識とか経験とかお金がたまるなら働いていてもいいんですけど、5年もやると仕事の内容が固まってきて、新しい経験が少なくなってきた。コンスタントにたまるのがお金だけになっていて、辞めても同じペースでお金がたまっていくんじゃないかなと思ったので、だったら辞めた方が新しい経験がつくのかなと思って退職を決めました。
ーーー家賃0円の家はどうやって見つけたんですか。
辞めてから3ヶ月くらいは働いていた時の家に住んでたんですけど、家賃がきつすぎるとなって。空き家バンクとか地方自治体に問い合わせしたりとか、いろんな方法で探しました。この家はちょっと親戚が持っていた空き家で、5年くらい放置されていたのを思い出して、交渉してみたら住ませてもらえることになりました。0円とまではいかなくても、相当安い賃料で借りられる家は探せばあります。
ーーー自分は心を病んで半年休んだことがあって、何とかして戻ろうとしたんですけど、それは社会的立場とか給与のことを考えたら会社に残るのが一番いいと思ったから。一方で無職さんは自分の選択として辞めている。それが自分の感覚としては想像の範囲外で、そこが聞きたかったんです。
安定して給料が出るとか社会的信用を得るのであれば、会社を続けるのが一番正解で安全だと思いますけど、その状態にはいつでも戻れるかなと思っています。教員免許と宅建を持っているので、再就職の道はある程度開けている。いつでも戻れるから、逆に無職を維持していくことができるんです。
ーーー戻れる自信があるから自由にできるということですね。
性格的にも、入社さえすれば何とかなるかなと思っていて。元気で素直な人って多分雇われると思うんですよ。入り口の擬態ができるから、入っちゃえばこっちのもので。それが確定しているなら、別にそれまで何やっていてもいいじゃんっていう考え方ですね。
ーーー若いうちに自由な時間を持ってきたかったということなんですね。
20代後半から35くらいまでの、体力があるうちに自由な時間をガッと持ってきたかった。55歳でFIREしてもスカイダイビングとかバンジーとか怖くてできないかもしれない。やりたいことが体力を使うことなら、若いうちにやっておいた方がいい。無職生活をしてみたいという18歳から22歳くらいの子がいたら、まず5年くらいかけてお金を貯めた方がいいですね。ある程度何があっても5年くらい暮らせるだけのお金がないと、やっぱりしんどいです。
ーーー都会の人間関係に疲れたから田舎に来ましたという人がいるけど、田舎の方がコミュニケーションは必要ですよね。
そうなんですよ。都会で会社勤めしているのが実は一番人と関わらなくていいと思います。退職して引っ越してきてしばらくは、1日4本ずつ映画を見続けるみたいな、誰とも喋らない生活をしていたんですけど、飽きました。一人での楽しみ方に限界があって、やっぱり人と関わってこないとしんどくなる。Twitterのスペース機能で人と喋ったりしています。
ーーータスクもなくならないですよね。辞めたらなくなると思ったのに。
なくならないんですよ。友達の結婚式の二次会があってその準備をしなきゃいけないとか、税金の納付書が来てないから連絡しなきゃとか、こまごまとしたタスクがずっとある。辞めた時もいつまでに健康保険の切り替えをして、年金の免除をして、辞めてからもなんでこんな忙しいんだろうと。タスクがなくならないのはなくならないけど、やりたくないタスクよりもやりたいタスクでなるべく埋めるっていう感じですね。
ーーー逃げの生活としてはおすすめできないですか。
おすすめできないですね。山奥に籠れば一人になれると思うかもしれないけど、集落として機能しているところだと自治会とかもある。逃避先として田舎暮らしを選んでも、タスクはなくならないし、コミュニケーションはむしろ増える。やりたいことがあってここに来るのと、何かから逃げてここに来るのとでは全然違うと思います。
編集後記
無職さんの話で印象に残ったのは、「自分の中にたまるものがあるかどうか」という判断基準でした。スキル、知識、経験、お金。それらがたまらなくなったら辞める。辞めても同じペースでお金がたまるなら、辞めた方が新しいものがたまる。シンプルな理屈ですが、実行に移せる人はなかなかいません。
それを支えているのが、教員免許と宅建という「いつでも戻れる」カードと、入り口の擬態ができるという自己理解だと思います。ADHDの特性がありながら、銀行に5年9ヶ月勤め、投資も行い、田舎の家賃0円の家を交渉で手に入れている。想定よりは何とかなっていないと言いながらも、必要な場面では動ける人だという印象を受けました。
一方で、田舎暮らしの現実として「都会の会社勤めが一番人と関わらなくていい」という話や、「タスクはなくならない」という話は、安易に会社を辞めて自由になろうと考えている方にとっては、耳の痛い話かもしれません。逃げではなく、やりたいことのための選択として無職を選ぶ。そのためにはある程度の蓄えと戻れるカードが必要だという、とても現実的なお話でした。